ADHD(主に不注意型)と自閉症スペクトラム障害を持つ娘は、3歳での発達検査を受け、発達の偏りが見つかりました。
そこでさっそく、初めての療育として、療育機関で勧められた、
- OT(作業療法)
- グループ療育
の2つを受けることになりました。

これでどんどん、ほかの子に追いついてくる!
と期待を持って始めたのですが、なかなか成果は見えません。ついには親の方が、

療育なんて、意味あるのかな…?
と、懐疑的な気持ちになってしまいました。
自分の「療育・発達に対する認識」そのものがずれていたのだ、と私が理解したのは、もっと後のことでした。
今回は、療育とはそもそも何なのか、そしてそのころの娘の様子について書いていきたいと思います。
発達障害のこどもの療育とは
「療育」という言葉を私が初めて知ったのは、この前段階で行われた娘の発達検査と、その結果を受けての先生とのお話の時でした。
娘の、日常生活の中での難しさを和らげていくためには、個別的できめの細かい指導が有効だと思う。そのために行うのが「療育」である、ということでした。と言われても、当時の私には初めての言葉ばかりで、さっぱり要領を得なかったのですが…。
療育とは
療育とは、発達検査で発達の遅れや偏りが見つかった子供たちが受けることができる、治療的な教育です。
障害がある子供たちのより大きな発達を促し、社会的自立に向けて支援するために、公的機関や医療機関、民間の療育施設などが、様々な専門的なプログラムに則り、いろいろなトレーニングを行っています。
早期療育の大切さ

早く気が付いたことはラッキーだったんですよ。
そう、検査を担当してくださった先生には力説されたものです。
ですが、私が親として「早期療育が有効である」ということを実感したのは、娘が小学校の特別支援学級に入学してしばらくしてからのことでした。
年少から、月2回の療育のみだった娘は
娘は、
- 月2回の「グループ療育」と「OT」を受ける
- メインは保育園に通園し、大勢のお友達にかこまれて過ごす
というかたちで、保育園時代を過ごしました。ですが、その後小学校に入学してしばらくは、とにかくトラブルばかりの日々でした。
そのたびに特別支援学級の先生に手厚いフォローを受け、なんとか乗り切る、という日々が続きました。
未満児から、毎日の母子通園でみっちり療育したTくんは
一方、お友達のTくんは、
- 未満児・年少クラス時、毎日の母子通園で手厚い療育を受ける
- 年中クラスから保育園に転園
- しかし、月2回の「グループ療育」と「ST」は続ける
というかたちで、幼少期を過ごしました。そしてTくんは、小学校入学後もスムーズに学校に通っていました。
本人なりに抱えている困難さは変わらなくても、その都度自分で対処法を考えながら過ごしている様子でした。Tくんは、自分の生きづらさに対応するための「カード」を、娘よりもたくさん持っているように見えました。
適切な働きかけがないと、学べない

普通の保育園で、たくさんのお友達の中で揉まれてきたんだから、そのぶんたくさん発達できているはず…。
と、私は思っていました。
でも、コミュニケーションに障害があると、いくら大勢のお友達からの刺激があっても、そこから自然に学べないのです。
その刺激を「発達するための情報」として自身の中にインプットすることも、「その情報を処理する」ことも、いわゆる「普通の子」ではない娘には、難しいことだったのです。
娘の発達には、「療育」という「適切な働きかけ」が、もっともっとあってよかったのです。
いくら介護で忙しいといっても、もっと親としてやってやれたことがあったかもしれない…。私は娘が小学校に入学してようやく、そう思いが至ったものです。
より早期からの、適切な療育が、子供の伸びしろを広げる
子供の発達の仕方はその子その子で違います。いつまでもゆっくり成長する子、急に発達の伸びが加速する子、特定の分野だけの伸びが鈍い子。いろいろなタイプの子がいます。
でも、どの子もだんだんと成長していきます。
その成長し、発達するときに、その子に合った適切な方法で、手を取り導き、背中を押してあげたら、その発達の伸びしろはより大きくなり、速度が増すことだってある。
それを、私は娘の療育仲間の中で、何度も目の当たりにしてきました。
その子の困難さを見極めて、その子に合った方法を見つけてあげること、その教育を続けていくことは、始めるのが早ければ早いほど、効果も大きくなる、と、私は実感しています。
3歳で娘が受けた療育
私たちが住む地域で受けられる療育の中で、療育園の先生に紹介されたのは、次の2つでした。
OT(作業療法)
OTとは、障害などで体を動かすことがうまくいかない子供に、いろいろな作業や遊びを通して、生きるために必要な動作や能力を改善するように発達を促す療育です。
OTは、この地域の総合病院のリハビリテーション科で行っていて、作業療法士の先生と遊びながら、微細運動(手先の器用さなど)や粗大運動(走ったり歩いたりするような体の動かし方)の訓練をする、という形でした。そのために、同じ総合病院の中の小児科外来に受診する必要がありました。
年少クラスの後半に入っても、娘の不器用さはなかなか改善されていませんでした。
コップから水を飲めばすぐ服にこぼし、パジャマのボタンを一つ掛けるのにもほかの子の10倍くらいの時間を費やし、靴にかかとを入れるのにも手伝いが必要…。ほぼすべてのことに時間がかかり、できないことも多々ありました。
そのような日常生活における難しさ、不器用さに対応するために「OT(作業療法)」が勧められました。
内容は、「パズルをする」「色輪ゴムを何色もかけて、絵を作る」「鉛筆で点をつないで絵を完成させる」など、微細運動に関するものが主で、面白そうなおもちゃもたくさんありました。
グループ療育
グループ療育は、少人数のグループ単位で行われる療育です。
発達に偏りがある娘は、1対1で面と向かって話すときには、わりあいにきちんと話を聞き、受け答えもそれなりに正しいことが話せました。
ところが、保育園のクラスで、先生が前に立ってみんなに向けてお話をする…というような「一斉指示」のときには、窓の外を見たり園庭の砂をいじったり、まったくお話の内容が耳に入らない様子なのです。
先生のお話も給食も着替えも、とにかく気が散り、何もかもが集中できないところに、娘の日々の困難さが集約されていました。
そのような「一斉指示」に対して集中して取り組む練習の場として、「グループ療育」が勧められました。
娘は、お友達と一緒にいたり初めての場所に行ったりすることにはそれほど苦手な様子はなかったので、少人数のグループでの「グループ療育」に参加することになりました。
この療育では、6~7人くらいの小規模な集団の中で、様々な活動や遊びをすることを通して、先生のお話を聞いたり順番を守ったりというような「集団生活」を練習するような形になっていました。月2回の開催なので、日常生活でも実践できるように、親も一緒に参加しその方法を学ぶ(ペアレントトレーニングといいます)、という場でもありました。
そのほかの療育の例
娘が受けた療育のほかにも、私たちが暮らす地域では次のような療育が受けられる、ということでした。
ST(言語療法)
言語聴覚士の先生によって行われる、コミュニケーション方法を発達させる練習です。
娘は、言語に関する検査項目ではほとんど遅れが見られなかったということで受けませんでしたが、言葉がなかなか出ず、意思を伝えることが苦手な子はこちらの療育を受けることが多いということでした。
言葉を増やすという方法だけでなく、絵カードや文字のメモなどを使ってコミュニケーションを練習していくこともあるそうです。
PT(理学療法)
理学療法士の先生によって行われる、日常生活のための基本的な動作ができるようになるための運動などの練習です。
リハビリのための運動、電気など、物理的な方法で身体機能を改善させる療法です。身体的な障害がある子が受けることが多いということで、娘の通ったリハビリテーション科に設置されていました。
SST(ソーシャルスキルトレーニング)
直訳すると、社会(ソーシャル)で暮らすための能力(スキル)の訓練(トレーニング)、という意味になります。
現代社会で生きていくためには、様々な人とのコミュニケーション能力や、自分自身の行動をコントロールするための自己管理能力などのスキルが必要不可欠です。これを訓練していく療育がSSTになります。
これは当時の娘のような幼少期の療育というよりは、もう少し年齢が上がった段階での療育になるようで、私たちの住んでいる地域では、小学校の特別支援学級や特別支援学校での開催になるということでした。のちに小学校に入学した娘も、このSSTを受けることになりました。
小学校での内容は、娘の受けた「グループ療育」をもう少し発展させた感じで、「みんなの前でいくつかの項目について自己紹介する、そして他人の自己紹介の聞き方を学ぶ」とか、「ゲームをしながら、ルールを守ることや勝った時・負けた時の自分の気持ちのコントロールを学ぶ」とか、学校生活ですぐに応用できるような実践的な形でした。
TEACCHによる視覚的構造化
TEACCHプログラムは、自閉症などのコミュニケーションに困難がある子供たちの支援のための、包括的ケアプログラムです。
特定の療育方法ではなく、自閉症スペクトラムのこどもたちに、困難さのさまざまな面から療育的アプローチをしていくための理念です。
この理念に基づいた「視覚的構造化」は、現在私が息子とかよっている母子通園の療育園や、現在娘が在籍している特別支援学級でも、積極的に取り入れられています。
「勉強、給食、休むなど、活動のスペースが分けられている」「その日の活動スケジュールがわかりやすく書かれて掲示されて、いつでも見ることができる」などです。
自閉症スペクトラム、そしてその周辺に位置する発達障害のこどもたちが、日常生活や学校生活を理解しやすくすることで、より伸びやかな発達を促すことができます。
民間のセラピーなど
そのほか、このあたりはとんでもない田舎なので選択肢としてはありませんでしたが、次のような療育が受けられる地域もあるようです。
音楽療法、絵画セラピーなど
音楽療法、絵画療法は、介護していた義理の祖母も、通っていたデイケアでやっていました。そのように、最近では認知症の方へのアプローチとして定着してきた音楽療法・絵画セラピーなどは、都会では発達障害を持つ子供たちへの療育としても行われているようです。
視覚優位の子、聴覚優位の子など、発達に偏りがある子供にとって、良いアプローチとなることがありそうです。
療育を受けた娘の様子、親の気持ち
さっそく始まった、2種類の療育。
私は、

これで、娘もだんだんみんなに追いついてくるはず。
発達の遅れだって、治る。
と思いながら、介護の時間をやりくりして娘と一緒に通い始めました。
療育をするのは、「治す」ためではない
すでにこの「追いつく、治る」というところから、自分が見つめていた方向が間違っていたのだ、と今ではわかります。
療育をする本来の目的は、
です。
「普通の子にする」ことではないのです。
でも、なんの知識もなく療育に通い始めた私は、それが全然わかっていませんでした。間違った方向を向いたまま療育を続けることは、なかなか成果が出ないことにつながっていきました。
発達外来の医師は忙しそう
OTを受けるために、娘は同じ総合病院内の小児科発達外来にかかるようになりました。
総合病院ではよくある話だと思いますが、
- 予約が取りにくい
- 行ってもとにかく待つ
- そして医師が忙しそう
という様子でした。子供の発達について聞きたくても、じっくり教えてもらうという時間はありませんでした。
療育に関して、間違った方向を向いてしまっている親に、医師がそれを指摘する、ということもなく、というかそもそも医師がそんな親の様子に気が付けるほど、親とじっくり話す時間的ゆとりもなさそうでした。
私も、教えてもらえないなら自分で本を読むなりして「発達と療育」についての勉強をすればよかったようなものです。でも無知ゆえに、

ちゃんと病院にもかかってるんだし、先生には何も言われないし…
という思いで、ただ漫然と発達外来に通い続けました。
なかなか成果が出ない療育
娘自身は、楽しい遊びの形でやってもらえる2つの療育に、喜んで通っていました。
これはとてもいいことでした。療育は、子供本人が楽しみながら、やる気を持って取り組むことが一番大切です。
ただ、それぞれ月2回という途切れ途切れな療育だったこともあり、半年たっても、保育園や家での生活の中で、目立った成果を感じることはできませんでした。
そして、年度が変わり、娘は年中クラスになりました。
保育園で求められるレベルは日々高くなり、親としてはできないところばかりが目につき、夫も私も娘を叱ることが増えました。お友達も、どんくさい娘に容赦なく文句を言うことも多くなりました。娘はそのたびに、パニックのように泣き叫ぶことが何度もありました。

こんなに成果が出ないなんて、療育なんて本当に意味があるのだろうか…。
私はだんだんと、そんな思いにむしばまれるようになりました。
セカンドオピニオンの誘い
通い始めて1年近くがたち、療育に成果を見いだせず、重い気持ちでいた私に、

療育どう?成果出てる?
と、同じクラスの親御さんが声をかけてくれました。療育園に母子通園していたTくんのお母さんでした。
Tくんは、お母さんと一緒に毎日療育園に通い、みっちりと療育を重ねたうえで、年中クラスから娘と同じ保育園に転園してきていました。
私から見ると、騒ぐこともなく保育園のルーティン通りに落ち着いて過ごしているTくんは、いったいどこに困難があって療育園に通っていたのか全く分からない感じでした。
T君のお母さんは、似たような子を持つ私のことを、気にかけてくれていたようでした。

正直、あんまり成果なんか感じられなくて…。
療育なんか、ほんとに意味あるのかな、って思ったりもするんですよ。
と、私はつい愚痴をこぼしました。
するとT君のお母さんは、

療育は本人に合ったものなら、成果はあるものだよ。
でも、娘ちゃんがなかなか変化ないなら、ほかの先生の話を聞いてみるのもいいかもしれないよ。
うちがかかってる先生に、行ってみたらどう?
と、かかっている病院を教えてくれました。
そこは、いつも娘が風邪をひいたりインフルエンザの予防接種をするために通っている、娘のかかりつけの小児科でした。
そこの病院が「発達外来」をやっているなんて、私は全く知りませんでした。
そのかかりつけの先生は、個人の小児科を開業する前から、大学病院や総合病院で発達に問題がある子供を専門に診ていて、経験も豊富だということでした。なにより、その発達外来でTくんがかかっていた言語聴覚士の先生が、それはそれは親身でとてもいい先生だ、ということでした。
突破口を求めていた私は、すぐにT君のお母さんに紹介してもらって、いつものかかりつけの小児科で、セカンドオピニオンとして発達外来を受診することにしました。
まとめ
初めての療育は、親の知識不足もあって、成果が出ないものになってしまいました。
でもこの時、Tくんのお母さんに声をかけてもらったことで、娘の療育環境と親の心構えが大きく変わることになりました。
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