息子が1歳になるころまでは、息子の発達について、親としては特に何もおかしいとは思っていませんでした。
すでにそのころ、お姉ちゃんである娘はADHD(主に不注意型)と自閉症スペクトラムの診断を受けていました。しかし、その娘の幼少期に比べてみても、息子は体の発達も知能の発達も、まったく問題ないように感じていました。
そんな息子ですが、1歳を過ぎたころから、私は少しずつ、発達に関してかすかな違和感を覚え始めました。
そしてそのたびに、

大きく生まれたんだから大丈夫。

男の子だからだ。
と、自分の中の違和感をぬぐおうとしていました。
今回は、発達の偏りがあり、現在療育中の息子の1歳のころから、1歳半検診で療育園の先生に違和感を指摘されたころまでを、まとめてみたいと思います。
1歳から1歳半までで見られた、最初の兆候と特徴
すべてが教科書通りだった息子の発育に、少しずつ標準とのズレを感じ始めたのは、1歳のお誕生月付近からです。
強い偏食傾向
息子は、ものすごく偏食がありました。
しかし、最初から偏食傾向だったわけではありません。生後5~6か月の頃から自治体の指導通りに始めた離乳食は、とくに嫌がる様子もなく普通に食べていました。
娘の時は、丁寧に裏ごしして作っていた離乳食。しかし、2度目となる息子の離乳食づくりはずぼらなもので、みそ汁の具をとってすりつぶしておかゆに混ぜる、というような適当な内容でした。甘いカボチャのようなものの方がよく食べる、というようなところはありましたが、偏食というほどではありませんでした。
きっかけは、生後11か月ころのノロウイルス感染
偏食が始まったきっかけは、息子が11か月の時に発症したノロウイルス感染症でした。
息子の嘔吐下痢は瞬く間に家族中に感染し、そこから2~3日、我が家は「ここは地獄の果てか…」という悲惨な状況でした。そうはいっても、ウイルスが出て行ってしまえば終わり、ということで、大人や小学生の娘はほどなく回復しました。
ところが、息子はいつまでたっても下痢が治りません。牛乳を飲んでもミルクを飲んでもおかゆを食べても、すぐにお腹を下してしまうのです。それが1か月近く続き、ノロウイルス感染がきっかけで腸内細菌のバランスを著しく崩したのだろう、と診断されました。乳糖不耐症の子用の粉ミルクならばなんとか下痢せずに飲めたので、それで水分と栄養を取りながら過ごす、ということが2か月以上続きました。
ようやく治ってきたのに、食事を拒否し始める
少しずつ、牛乳やおかゆでも下痢しなくなってきたので、ようやく離乳食に戻そうとしたのですが、ここから突然、息子の「偏食」が始まりました。
牛乳やおかゆ、パンや赤ちゃん用のお菓子ならば食べたり飲んだりするのですが、魚や肉、野菜などは断固拒否で、口を全く開けなくなりました。シラスやおかかのような、おかゆに混ぜると食べるものはありましたが、おかゆに野菜やひき肉などが混ぜてあると分かると、もう一口でも食べません。

いったいどうしちゃったのだろう、まだお腹の具合が良くないのだろうか…
と思っている間に、お芋もカボチャも食べない、お茶も飲まない、という感じで、偏食の度合いは日に日に強くなる一方でした。ほどなくして、離乳食は完全にストップしてしまいました。
バイバイ、こんにちはをしない
1歳過ぎても、息子はなかなか「こんにちは」も「バイバイ」もしてくれませんでした。
言葉でも、身振り手振りでも、出てきませんでした。他人だけでなく、家族のような親しい間柄の相手でも、挨拶をしてくれませんでした。
「パパ」「ママ」、お姉ちゃんの名前や「ワンワン」などの単語は月齢並みに出てきていたのに、なぜ挨拶だけは全くしないのか、私は軽く違和感を覚えていました。
発達障害が診断された娘も、1歳過ぎのころには「こんにちは」も「バイバイ」も身振りでできていました。なのに、「正常」に生まれた息子がなぜ挨拶しないのか…。
でも私は「とても愛想がない子」なのだと思っていました。
名前を呼んでも、なかなか振り向かない
息子は、名前を呼ばれることへの反応が、とても鈍い子でした。名前を呼んでも、なかなか振り向かないのです。
これは私は、早くから気になっていました。絶対に振り向かないわけではないのですが、顔をのぞき込んだり何度も呼び掛けたりして、やっと振り向く、という感じでした。
パパ、ママ、お姉ちゃんの名前は、言葉としてきちんと入っていたのに、息子自身の名前は、言葉としてもなかなか出てきませんでした。

自分の名前が覚えられないのだろうか?
と、私はいぶかしく思っていました。そんなに特殊な名前でもありませんでしたが、発音しにくい名前なのかもしれない…と思うようにしていました。
「ずいぶん、意志が強そうな感じがしますね」
定期的に通っている娘の発達外来には、預かってくれる先もなかったので、いつも息子も連れて行っていました。息子は発達の診察の部屋にあるおもちゃでいつも機嫌よく遊び、発達の先生のこともとても好きでした。
そんなある外来の日に、息子の遊んでいる様子や、娘や私と息子とのやり取りを見ていた先生が、

息子くんは、ずいぶんと意志が強そうな感じがしますね。
とおっしゃいました。

そうなんですかね~。
名前を呼んでもちょっと反応が鈍いような気もするし…。
なかなかバイバイも覚えてくれなくて…。
まあ娘のこともあるので、私も過敏になっているかもしれないんですけど、ちょっと心配なんですよね。
と私が心に引っかかっていたことを何気なく持ち出すと、先生は、

呼びかけてもなかなか反応してくれないのは、大した用事もないのに呼ばれて『試されている』ことが、息子くんは本当はわかってて、嫌なのかもしれないですよ。
バイバイも、息子くんからしたら『なんでやらなくちゃいけないの?』という気持ちかもしれない。
観察していると、息子くんは、
「自分がきちんと納得したことだけがしたい」
っていう意思が、すごく強いタイプに見えますね。
と息子を眺めながらおっしゃいました。
これが、他の人から息子の特徴を指摘された最初でした。
私は、

そんな、先生ったら、またまた~。
息子はまだ小さいから、そんな難しいこと考えてないですよ。
と、一笑に付してしまいました。
ですが、今現在の、療育を受けている真っただ中の息子は、先生が指摘した特徴そのままのこどもです。やはり、専門家である先生が見ると、かなり幼いころからでも親も気が付かないような兆候が、分かったのだと思います。
1歳半検診で引っかかった、息子の様子と特徴
息子の情緒面の発達について、かすかな違和感を覚えつつも、「男の子なんて、そんなもんよ」という周囲の声に「そうだよね」と私はつとめて安心しながら、1歳半検診を迎えました。いつも通り、身体的な発達や歯の検査・内科的な検査では、なにもひっかかりませんでした。
ところがここで、検診を受ける息子の態度や様子について、指摘を受けることになりました。
質問に答えない
答えない、よりも無視
保健士さんの真似をして積み木をいくつも積む、という検査は、器用な息子は笑顔であっさりクリアしました。
ところが、絵を見て「ワンワンどれ?」などに指差しする、という検査では、1つしか答えませんでした。質問に答えない、というより、

……。
むしろ反応ゼロの状態で、まるでそこで検査なんかされていない、というような様子でした。
重ねて聞かれると、息子はプイっと立ち上がって、遠くに走って行ってしまいました。抱きかかえて無理やり連れ戻したのですが、その後のほかの検査でも、

答えたくない!
という態度が全開で、暴れる息子。手を離すと、保健師さんを無視して積み木を積み重ねて遊んでいました。
いつもはもう少しできるのに…
息子は、家で過ごしている平常時なら、もう少しマシには答えられていました。とはいっても、家でも、こういう質問に対する反応は薄くて、興味がないのがありありと分かる態度ではあったのですが…。
それでも、家よりもさらにあからさまに、答える意欲を全く見せない息子に、私は戸惑いました。姉である娘の小さいころは、家でも検診でも保育園でも、ここまで違う様子ではありませんでした。

どの検査も、いつもはもう少しできるのに。
これじゃ、発達に偏りあり、って項目にひっかかっちゃうよ…。
と、私はとても困惑した気持ちで、勝手に遊んでいる息子を眺めていました。

いつもおうちでは、どれくらい答えられますか?
と保健士さんに聞かれて、私は、

いや、もう少しマシなんですけどねえ…。
と答えるのがやっとでした。
読み聞かせに興味ゼロ
止めても聞かず、走り回る
同じ日に同じ検診を受けた子は30人弱ほどいたのですが、待っている間の時間に、保健士さんが大きな絵本を読んでくれたり、歌いながら手遊びをしてくれたりしていました。
息子は、歌には少し目を向けていましたが、絵本の読み聞かせには興味が全くない様子で、そこいらを走り回っていました。もともと家でも、絵本には全く興味を示さなかった息子でしたが…。
ほかの子は、みんな座っている
息子以外の子は、みんな落ち着いて、読み聞かせに耳を傾けていました。そしておとなしく、親御さんの膝に座ったり抱っこされたりしていました。
その様子を見て、私はびっくりしました。

1歳半って、みんなこんなに落ち着いているの?
カルチャーショックを受けた気分でした。
もちろん、走り回っている子はほかにもたくさんいました。けれど、他の子が走り回っていたのは大体、待ちくたびれてヒマだったり、内科検診のために服を脱いだ開放的な時だったりでした。絵本の読み聞かせのような「おたのしみ」の時間は、どの子も絵本に見入っていたのです。
みんなが静かにできる場面で、できない。これは、少なからずショックでした。
療育園の先生に、面接を受ける
すぐに、面談をセッティングされる
検診での息子の態度、そして上に発達障害と診断済みの姉がいることもあって、息子はその場で、言語聴覚士の先生との面接がセッティングされました。
面談室に入ると、その日の担当の言語聴覚士は、娘が3歳の時に受けた発達検査で検査を担当してくださった、懐かしい先生でした。まあ、検診を受けているのは娘も息子も同じ自治体なので、当然といえば当然ですが。
娘が小学校入学後、特別支援学級と通常学級でのびのび過ごしていること、習い事も辞めずに続けていることなど、近況報告ができ、うれしい気持ちでした。
その後、先生に息子を観察していただきました。先生は、検診で答えなかった同じ質問をもう一度示しながら、息子の様子を注意深く観察してくださいました。
このときは、まだ経過観察に
面談室はこじんまりした個室で、とても静かでした。そのせいか、息子は先ほどは答えなかった質問にも、いくつか答えることができていました。
絵本に興味はなくても、車のような大好きなおもちゃを出されると、喜んで先生と一緒に遊んでいました。面接後、先生は、

目線もしっかりしているし、お名前呼びにも一応反応しているし、今回は、経過観察でいいと思います。
ただ、集団の中ではちょっと難しいところがあるお子さんかもしれないね。
次の2歳児健診まで、注意深く様子を見ていきましょうね。
と、にこやかな調子で伝えてくださいました。
集団の中で難しいところがある…。この子も、そうなんだろうか。
ちゃんと正常に生まれてきたのに。そんなことがあるだろうか…。
その時、私の心の中の大きな部分を占めていたのは、「そんなわけがない」という気持ちでした。

そりゃちょっと気難しい部分があるかもしれない。
でも今日は、慣れない場所でちょっとさらに機嫌が悪かったんじゃないかな。
そんな気持ちでした。次の検診の時は、息子はもっと発達していて、取り越し苦労でしたね~、って笑っているだろう。そう思いました。
そして、そんな思いとは裏腹に、漠然とした不安を抱えて、私は息子と検診会場をあとにしました。
今思うと、いかにも発達障がいがありそうだった
よく思い出してまとめてみると、あの頃の息子にも、やはり自閉的な傾向がみえるなあ、と書いていて改めて感じました。
娘の療育を通して、少しは子供の発達に関する知識が付いていた私でしたが、それでも、息子の特徴的な部分は受け入れがたい気持ちがあったのだな、と懐かしく思います。
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